やんばいでございます。井川メンパ大井屋店主の前田です。こんにちわ。
こちら大井川上流は朝晩がすっきり過ごしやすくなってきました。日中はそれなりに暑いですので遊びに上がってくる方は薄着だけでなく羽織るものもあった方がいいですよ。ご自愛ください。

さて先日より匂わせておりました値上げでございますが、予定通り9月になりましたので全商品を千円ずつ値上げしました。ベースアップ値上げとなりました。ただでさえ増税前なのにということではありますが、大井屋の心情としては増税を隠れ蓑に理由も無く値上げするわけではないことを理解していただきたくこのタイミングでの値上げとさせていただきました。

私は井川メンパ望月での修行の後に川根本町千頭に移住し2016年9月よりこの大井屋の操業を開始し丸三年のこのタイミングではございます。いろいろと思うところがあり、今回なぜ値上げしたのか?また今後の井川メンパ大井屋の展開について考えていることをご案内させてください。

さて、すでに井川メンパをご利用していただいている皆さんにとって井川メンパというものがお弁当箱としてだけではなく、もしくはそれ以上に郷土的ノスタルジアを内包している大事なアイデンティティアイテムとして機能していると私は考えております。
つまりお弁当箱ではあるけれど、なおかつそれ以上にそれを使う行為自体にいろんな意味を持つことがあるのが井川メンパという不思議な漆塗りの曲げわっぱだと信じています。
だからこそこの井川メンパがどんな素材でどんな方法論でどのように作り上げられるのか?そこに後ろ向きな気持ちやイデオロギーがあってはならないと至り、この高度に工業化されてゆく未来へ逆行ではなくどのように寄り添いながら居続けることができるのか?それを深く深く考えていました。


この三年間は井川メンパが今後どういうものであるべきかを自問自答しながら製作の日々をルーティーンして参りました。それは忌憚なく表現すれば私の受け継いだ井川メンパは工芸ではあるけれど民芸もしくは民藝というものからはほど遠いものであるという観念からスタートしました。はっきり申し上げればすべての技法、行程を再構築する必要があったのです。

我々の先祖はかつて身の回りの自然からすべての素材や道具を産み出してメンパというものを具現化しました。ただそれがいつの間にか工業というフィルターを抜けていくうちに大事なものをいくつか削ぎ落とされてきたのだと思います。
つまりより利益をあげるには?よりたくさん効率良く売りたい。儲けたい。生き抜きたい。というあまりにも孤独な観念が私が修行した井川メンパにはあったように思います。
実は対面で売るという行為はお客さんとリアルに接することができる大事な品質管理方法だと考えており、ですから大井屋では一部の例外を除いて店舗での直売のみとしてきました。遠方のお客様やいろんな理由で来店の難しいお客様にはたいへん心苦しい日々であります。ただこれを怠り卸売りを専業にしたり、利益を優先し始めるといろいろとその工芸フィルターがかかり始めると信じています。
修行を終えたそのころ、ちょうど井川メンパ海野周一さんがお亡くなりになられ海野家が直売を守ってきたそのスタイルが世の中から無くなる怖さをを感じたのでそういう移住、直売スタイルをこのインターネット時代に逆らうかのごとく突き抜けてやろうという思いに至りました。

ですから民藝を工芸に落として卸し商売に徹するという姿勢は私には踏襲できようもないビジネススタイルであったため、今こうして千頭に店舗を運営しております。哀しいかな山を捨て街に出てしまえば、そういうフィルターがすでに数世代もまえからかかりはじめていたという事実は修理などをやっていると見えてくる事実でした。

大井屋では創業時から望月のメンパ価格より何割か高い値段でした。それは今いったように大事なことを忘れずにやろうとすればするほどにとにかく安くつくるというフィルターを削り落としていった結果ですのでそれなりの理由があるのです。なので私は私の活動を信じ大井屋でメンパをお求めいただいた皆さんにお返しができるように、なるべく長生きしなるべく才能ある若者をメンパ職人として世に残す義務があると感じています。今思えば三年前と今日ここにいる私ではまったく別物になっており、未熟なかつての自分を応援していただいた皆様に改めてお礼を申し上げたい。値上げなのにそんな気持ちで溢れております。

とにもかくにもお茶の上にも三年。素材の見直し、木工の方法論、精神論。見た目にわかる変化以上に大井屋のメンパのバックグラウンドに拡がった世界はそろそろ枠を抜け出せそうに思えてきました。

いくつか分かりやすい変化をお知らせします

臭い
→漆に当たり前のように混ぜられる一切の有機溶剤(テレピンシンナー)を排除しました。故に大井屋の井川メンパは臭いがしません。本来漆は硬化すれば無臭なのです。

つや消し
→漆に当たり前のように混ぜられる油。乾性油というものですが、自家で天日黒目やなやしを行うようになり排除できました。混ざりものの無い漆はつや消し状態になります。テカテカにはひかりません。艶が無い分下地の大切さに気づくものです

カバ縫い
→一切のボンド、接着剤を使わない桜の皮だけで縫い留めます。樺桜の質の見直し、採取方法の見直し、縫い方の見直しが必要です。でも簡単です。大昔のボンドが無かったころのメンパを分解し学べばいいだけです。先人は賢い。いろんなスタイルがあります。メンパの内側をご覧ください。大井屋のメンパは縫いの回数が極端に多いです。そういうことです。

軽い
→下地の柿渋を自家製で贅沢に何回も塗ります。見た目ではわかりませんが強度の向上、腐食防止、何よりもメンパがふわりと軽くなる。井川メンパは山仕事の弁当箱。軽さが命のはずなのに見た目優先の感性はいつのまにか下地法を変えてしまった。大井屋にメンパは子供が持っても重いとは言いません。本来メンパはそういうものです。
また材木の檜の乾燥期間、乾燥方法、産地と品種。掘れば掘るほど怖いくらいに個性が出る部分です。山を捨てれば都会で材木を大量に長期間保存はできません。そういうことです。


いくらでもかつての己との違いは上げれますが、要は本当にすべてのことを根底から考え直し利ビルドしたと言えるので値上げをします。

静岡市内で流通する現在の値段設定はとにかくいろいろ削っても安く作るという方法論を前提に設定されています。

井川メンパ大井屋は安く作るのではなく、本来あるべき姿の自然の産物として存在する井川メンパを目指します。故に本音を言えばまだまだこんな値段では足りないとさえ思っています。ただし大事なのは皆さんに使ってもらうこと。世間の感覚に寄り添いながらかけはなれすぎないポジションまで引き上げていけば、自ずと次世代の育成へと舵を切ろうと思います。
ついでに言っときます。民藝を民藝足らしめるには補助金だとかそんなもんまきちらしても精神を弱体化させてしまうだけで、ふんばりの効かない工芸に進むだけです。
その世代が生き残っても数世代先には途絶えるでしょう。要はその使い方を導くのが本当の親方だと思います。

言葉が過ぎると言われるかもしれないのは重々承知しておりますが、命を懸けて井川メンパを推し進めていきたいと思っているので今後は大人しくしているつもりはありません。百人の人全員に理解してもらうことは無理ですが、これを読んで少なからず自分の中にうごめく何かを感じた数人が居れば俺はそれでいいのです。

値上げの話がいつのまにか大井屋宣言になってしまいましたが、具体的な値段を書いておきます。
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丸形S 7000
丸形M 8000
丸形L 9000
丸形LL 10000

小判型S 8000
小判型M 9000
小判型L 10000
小判型LL 11000

丸形Lセット15000
丸形LLセット17000
小判型Lセット17000
小判型LLセット19000
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他にも浅口タイプ、おひつ型メンパ、おひつシリーズとありますがすべて千円値上げしました。
税金は別です。けして安いものでは無いように見えますが、全国にちらばるいくつかの曲げわっぱをご覧ください。漆塗りの国産まげわっぱは軒並みこの倍以上の値段設定なのがよくわかると思います。

つまり、孤独を捨て自我を脱ぎ捨て産業として存在するにはそのような値段に必然的になるものなのです。そこまではまだまだ時間がかかりますが、諦めず、孤独にならず、仲間を増やしつつ大井川を遡上していくつもりです。若者よ。俺もまだまだ若者のつもりだけれどはよ楽させてくりょ。井川メンパに興味を持った人はぜひ私に会いにきてください。待ってます








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